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広島高等裁判所 平成7年(う)25号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

被告人黒山に対し当審における未決勾留日数中四〇〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

被告人黒山明の本件控訴の趣意は、同被告人の弁護人新川登茂宣作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官石部紀男作成の答弁書に、検察官の被告人〓山省三に関する本件控訴の趣意は、広島地方検察庁検察官吉岡征雄作成(広島高等検察庁検察官石部紀男提出)の控訴趣意書(ただし、同趣意書中、一四七頁二行目の「被告人には……」から一四八頁三行目の「……述懐していること及び」までを除く。)に、これに対する答弁は、同被告人の弁護人合志喜生作成の答弁書(ただし、答弁書中、第一項を除く。)にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。

第一  被告人黒山明の控訴趣意中、事実誤認の論旨について

論旨は要するに、原判示強盗殺人の事実について、原判決は、被告人〓山省三(以下、被告人〓山という。)の供述などに依拠して、被告人〓山が内藤ヤスノ(以下、被害者という。)の後頭部を石で強打して失神させた後、うつ伏せの状態でその頸部にビニール紐を巻き付け、そのビニール紐を同被告人と被告人黒山明(以下、被告人黒山という。)が二人がかりで数分間力一杯引き合って被害者の首を絞め、その後、被告人〓山が、被害者の死体を仰向けにして被告人黒山と共に谷底目掛けて投げたが、すぐ近くに落ちてしまったため、斜面を降りさらに被害者を谷の下の方に転がし落としたとき、被害者が身体を動かしたり声を出すなど生存している兆候を示さなかったことなどを認定し、被告人両名の絞頸行為と被害者の死亡との間の因果関係を認定し、被告人黒山に強盗殺人罪が成立するとしているが、(一)被告人黒山は、被害者が仰向けの状態で絞めた旨の信用できる供述をしており、この供述を宮崎哲次の原審証言(ビニール紐が被害者の首を完全に一周していないとき、絞めの効果はうつ伏せの状態に比べ、仰向けの状態の方が少ないという内容)に照らすと、被告人らの絞頸行為は効果的でなく被害者が蘇生することが十分あり得るのであり、(二)また、被告人黒山は、右絞頸行為後に谷の下の方から被害者の声を聞き、下から上がって来た被告人〓山からも、被害者が蘇生した旨告げられたとの信用できる供述をしており、これに反する原判決の認定に沿う被告人〓山の供述は信用できないから、被告人らの絞頸行為と被害者の死亡との間に因果関係はなく、被告人黒山には強盗殺人未遂が成立するに過ぎないから、前記認定をした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というものである。

しかしながら、原審記録を調査して検討するに、被告人両名の原判示絞頸行為と被害者の死亡との間に因果関係があると認定した原判決の事実認定(被告人両名の供述の信用性評価も含む。)は、原判決がその理由中の「争点に対する判断」の項の二において、所論に関連して認定、判示しているところも含め、当裁判所はこれを正当として是認することができ、当審における事実取調べの結果によっても右認定を左右するものはない。

一  所論は、被害者の首を絞める際の被害者の体勢について、失神してうつ伏せに倒れたままの状態であった旨の被告人〓山の供述は信用できず、一旦仰向けにした旨の被告人黒山の供述は信用できる旨主張する。

しかしながら、被告人〓山は、捜査段階において、うつ伏せに倒れて身動きしない被害者の首に被告人黒山から受け取ったビニール紐を被害者の顎の下から通してビニール紐の両端を首の背中側の方に回して交差させ、結んだりはせず、そのままの状態で被告人黒山と共にビニール紐の端をそれぞれ持って思い切り引っ張って絞め、その時、被害者の首の後のビニール紐が首から少し浮いていて少し隙間があることに気付いたものの、被害者が年寄りなので、多少隙間があっても絞めれば死ぬと思ってそのまま絞め続けた旨具体的に、かつ、当時の状況認識に基づく判断をも交えて供述しており、本件当時、犯行場所から望見できた向かいの小屋から目撃されてはいないかと心配であり、早く事を運ぼうという気持ちであったことなどに照らすと、仰向けにせずうつ伏せのままの状態で被害者の首を絞めたというのは殺害行動として特段不自然ではない上、被告人〓山は原審公判廷においても一貫して右供述を維持しており、なお、うつ伏せに倒れている被害者の両肩の下に両腕を回して持ち上げ、被告人黒山も被害者の両足を両手で掴んで持ち上げて谷に投げた時、被害者を仰向けにしたか否かの点で捜査段階から原審公判廷に至って供述を変更していることについて、捜査段階の取調べ後に思い出す中で投げる時被害者の顔を見たような気がすることなどが根拠である旨述べているが、これは記憶の喚起として特段不自然ではなく、その内容は絞める時うつ伏せのままであったとの供述と矛盾するものでもないから、右供述を変更したことをもって、絞めた際の被害者の体勢に関する被告人〓山の前記供述の信用性を損なうものでないことなどに徴すると、原判決が認定、判示するとおり、被告人〓山の右供述は十分信用するに足りるものであると認められる。これに対し、被告人黒山は、被害者の首を絞めていた際に被害者の顔が白くなっていったことを主たる根拠として、被害者を仰向けにした旨供述するが、宮崎哲次の原審証言によれば、絞頸による窒息死という場合は、気管が閉塞することによる窒息、脳への動脈が閉塞されることによる脳血流低下、頸部の神経刺激による心停止が起こることが考えられるところ、首を絞めた場合には左右の内頸動脈は容易にしまるが、左右の椎骨動脈は骨の中を通っていて動脈全部はしまらず、静脈は容易にしまるので、頭蓋内、顔面も含め首から上の血液量が増えるから、顔色が赤黒くなっていくのが普通であること、もっとも、首を絞めたと同時に心停止の状況になったときには血流が止まるので、顔色は赤みがなくなってどんどん白くなるということも観察されると思われるが、そういう状況は一般的ではないことが認められ、本件がその希な事例であるとの証跡も窺われないことのほか、前記関係証拠及びこれによって認められる事実関係に対比して、被告人黒山の右供述は俄に措信し難い。したがって、この点の所論は採るを得ない。

二  所論は、被害者が谷の下の方で蘇生したとする被告人黒山の供述は信用でき、これに反する被告人〓山の供述は信用できない旨主張する。

なるほど、被告人黒山は、原審公判廷において、谷の下の方から被害者の「ワァーッ」、「こらえて。」という声を聞いたので、被害者のその声を現場の近くにある小屋にいる人に聞かれたと思い、小屋の方に走って行き様子を窺った、その後、被告人〓山の「何処にあるんか。」という声が聞こえた、その後に被告人〓山が谷から上がってきた時、「(婆さんが金につき)まだあるから全部やるから助けてくれ。」と言うので、何処にあるんかと尋ねても何処に置いてあるか言わなかった、また、こめかみと顎を指して「ここを五、六発殴ってきた。とんがった木があった。それで止めを刺そうと思ったけど、婆さんがその木をしっかり握って離さなかったからそのまま下に置いてきた。多分、年寄りだからこのままいくと思う。」などと告げた旨被害者が息を吹き返した内容の供述をし、当審においてもほぼ同旨の供述をしている。しかし、他方で、被告人黒山は、原審公判廷において、本件の二日後位から頻繁に被害者が血だらけではいずり上がって来る夢、谷に落とした被害者が「ウワーッ」、「キャーッ」などと叫んでいる夢、被告人〓山が上がって来て、被害者が助けてくれと言ったが、こめかみのところと右耳の下を殴った旨告げた夢などを見たなどとの供述をしており、被告人〓山から告げられたというその内容自体も、原判決が認定するように、被告人〓山が被害者の死亡を何ら確認せずに放置したとする点、また、高齢な被害者が後頭部を石で強打されて失神した上、その首を絞められた直後に意識を戻して、体力的に優る被告人〓山との間で木の取合いをして、同被告人がこれを取り上げることができなかったとする点など、不合理、不自然であることなどに照らすと、被告人黒山が夢に見たことと現実とを取り違えているものと窺われる。なお、被告人黒山は、当審に至って、平成七年一一月三、四日ころの午前中のころ、広島拘置所において、その日たまたま被告人黒山の担当となった横山刑務官に声をかけたところ、同刑務官から「道で二人で首を絞めてから〓山が被害者を崖下に引きずって行ったんだろう。」、「その後、〓山が被害者に止めを刺したんだろう。」、「〓山はわしに止めを刺したって言ったけどなあ。」などと言われた旨供述するけれども、被告人〓山は原審及び当審公判廷において、被害者が谷の下の方で生き返ったことはないと一貫して供述しているのはもちろん、横山刑務官という人も知らない、事件の話をしたこともない旨供述していること、また、被告人黒山の前記供述は、被害者に止めを刺さなかった旨下から上がってきた被告人〓山から告げられたというこれまでの被告人黒山の供述内容とは相違しているばかりでなく、被告人らの絞頸行為と被害者の死亡との間の因果関係を明確に否定する内容のものであって、被告人〓山が捜査段階、原審及び当審公判廷において被告人黒山のこれまで供述する事実を否定している一貫した供述態度などに照らすと、そのような内容のことを被告人〓山が同刑務官に漏らしたということ自体、不自然であること、さらに、拘置所の刑務官が共犯の立場にある者から聞いた事件に関することを他の共犯者に知らせるというのは通常余人をして納得させるものではない上、被告人黒山の供述自体、刑務官から聞いた経緯について具体性がないこと、その他前記認定の事実関係に徴すると、この点の被告人黒山の供述も措信し難い。したがって、この点の所論も採るを得ない。

以上のとおり認められるから、その他当審における事実取調べの結果を仔細に検討しても、右認定を左右するものはなく、信用できる被告人〓山の供述等の原判決挙示の関係証拠によって、被告人両名の絞頸行為と被害者の死亡との間に因果関係があると認定した原判決に所論の事実誤認はない。論旨は理由がない。

第二  検察官の被告人〓山に関する控訴趣意及び被告人黒山の控訴趣意中、量刑不当の論旨について

検察官の論旨は要するに、被告人〓山に対し無期懲役に処した原判決の量刑は寛刑に過ぎ正義に反する不当なものであって、同被告人に対しては極刑をもって臨むべきである、というものである。また、被告人黒山の論旨は要するに、被告人黒山に対し無期懲役に処した原判決の量刑は重きに過ぎて不当である、というものである。

そこで、各論旨にかんがみ、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討する。

本件は、原判示のとおり、(一)被告人両名が、共謀の上、被害者(当時八七歳)を殺害して金品を強取しようと企て、平成四年三月二九日午後二時ころ広島県福山市山野町大字山野字〓ケ端山国有林六八林班て小班付近の林道において、植木を取りに行くなどと称して同女を原判示自動車内から下車させ、被告人黒山が同女をその林道の道端に連れて行き、被告人〓山がしゃがみ込んでいる同女の背後から付近で拾った石でやにわにその後頭部を一回強打して転倒、失神させ、その頸部にビニール紐を巻き付け、被告人両名がその両端をそれぞれ持って数分間力一杯引き合い、被害者の頸部を緊縛して窒息死させて殺害し、その後、同車内において、被害者の手提げバッグ内から同女所有の現金三、〇〇〇円、同女名義のせとうち銀行株式会社三原支店発行の普通預金通帳、郵政省発行の郵便貯金通帳各一通及び印鑑二個を強取し、同日午後九時ころ原判示被害者方において、金品を物色するもこれを発見するに至らず、(二)さらに、被告人〓山が、右通帳及び印鑑を使って預金の払戻などの名下に金員を騙取しようと企て、同年四月九日午前一〇時ころから同月二七日午前一〇時四〇分ころまでにかけて、単独あるいは岩原葉子と共謀の上、せとうち銀行株式会社福山南支店、福山新涯郵便局あるいは福山郵便局において、被害者名義の普通預金払戻請求書一通、郵便貯金払戻金受領証一通あるいは岩原をして定額・定期貯金用郵便貯金払戻金受領証二通を各偽造し、原判示各係員にそれぞれ提出行使し、各払戻を受ける正当な権限があるかのように装って請求し、同人らをその旨誤信させ、よって同人らから現金合計三一万五、七九一円の交付を受けて騙取したという事案であるところ、ことに、本件強盗殺人の罪質、態様は凶悪であり、その動機に酌量の余地はなく、その結果も悲惨である。すなわち、原判決が認定するように、(1)その動機をみると、被告人〓山は、サラ金に多額の債務を負い、それに至った原因は同被告人の身勝手ともいえる理由によって解雇されあるいは退職し、その後、無計画な生活態度をとっていたことやパチンコに熱中したためであり、また、被告人黒山も生活資金などに窮し、それに至った原因も被告人〓山同様に無計画な生活態度によるものであり、そのためその返済資金などを得るため本件強盗殺人という凶悪な犯罪を敢行したというのであって、被告人両名共に酌量の余地が全くなく、(2)また、殺害に至る経緯も、絞殺用のビニール紐などを用意し、被害者方に赴き、同女に対し金員の貸与を申し出て、現金所持の有無を確認し、被害者を誘い出して犯行に及ぶという計画的かつ悪質なものであり、(3)殺害の態様、その後の状況をみても、確定的な殺意に基づき、足が悪く高齢の女性である被害者の後頭部をいきなり石塊で強打して失神させた上、ビニール紐を同女の頸部に巻き付けて二人がかりでこれを引き合って殺害し、被害者の遺体を発見されないようにと被告人〓山が谷の下に引きずり下ろし、さらに当初の予定どおり被害者方に押し入って金品を物色するという残虐かつ冷酷非情なものであり、(4)その結果も、被害者の遺体が人知れぬ山中でその後一年余も野ざらしとされていたのであって、悲惨というほかなく、被害者は何の落度もなく、被告人両名に対し好意的に対応し、金員を貸し与えているのに、これがむしろ本件犯行のきっかけとなっているなど、被害者の無念さは計り知れないものであり、なお、被害者の近親者はその次男と実弟のみであるところ、その次男は被告人両名に対する極刑を求め、実弟も死刑か無期懲役刑にして欲しい旨述べている。これらの諸事情に徴すると、被告人両名の刑事責任は極めて厳しく重大であり、その社会的影響も大きく一般予防の見地からも厳罰をもって臨むべきものと思料される。

以下、各所論を踏まえた上で、被告人両名の量刑について各別に考察する。

一  まず、被告人〓山に対する原判決の量刑についてみる。

本件強盗殺人の罪質、態様、結果、動機などは前述のとおりであるほか、被告人〓山は、昭和四六年一月ころからオートレースやボートレースに興味を抱き、昭和四七年一〇月ころから熱中するようになり、その資金を捻出するため勤務先会社から給料を前借りしたり、知人や金融会社から借金したりして金策する一方、自己の給料等をオートレースなどの資金に充て費消し、昭和四八年九月末ころ借金の返済に迫られ、その資力も金策の当てもなかったことから、知人や親しく近所付き合いをしていた菊池一の妻菊池マス子から借金した上、オートレースやボートレースに賭けて殆ど費消したため、同年一〇月二五日借金返済方法につき思案をめぐらしたものの、金策の当てがつかず、菊池マス子方には常時多少の現金を置いていること、同女が日中一人で留守番をしていることを思い出し、同女に刃物を突き付けて脅迫して金員を奪い、顔見知りである同女を殺害することを企て、同女の警戒心をそらすため手土産用に梨を購入して同日午後二時三〇分ころ同女方を訪ね、一人で留守番をしていた同女に梨狩りに行って来たなどと話をして安心させながら、一方では犯行を逡巡するうち、同日午後五時ころになって同女より金員を強取して同女を殺害しようと決意し、所携の軍手を両手にはめ、ガス台近くにあった包丁を掴んで同女に声をかけて呼び寄せてその衣服を掴み、その包丁を同女の胸部付近に突きつけ「金を出せ」などと脅迫し、同女が差し出した千円札三枚を払い落し、「これだけでは足りん、これしかないのか。」などと言って金品を要求し、同女が黒ビニール製手提鞄の中から預金通帳等を取り出し「これしかない。」と言うや、「金を出さなければ本当に殺すぞ。」などとさらに脅迫し、抵抗する気力を全く失っていた同女から押入れの布団の下に隠していた一万円札五枚を取り出させて強取した後、犯跡を隠ぺいするため、包丁で同女の左首辺りを力まかせに二、三回突き刺し、ガラス窓を開け近所に助けを求めようとする同女の背後からその衣服を掴んでうつ伏せに引き倒し、包丁で同女の背部を力一杯突き刺し、千円札三枚及び預金通帳及び印鑑等在中の黒ビニール製手提鞄等を強取し、同女を外傷性呼吸機能障害により窒息死させて殺害したという強盗殺人の罪を犯して昭和四九年四月一〇日無期懲役に処せられて服役し、平成元年七月二〇日仮出獄したが、その仮出獄中に本件各犯行に及んでおり、しかも、本件強盗殺人の犯行において果たした被告人〓山の役割には主導性が認められ、右犯行後に前述のとおり有印私文書偽造、同行使、詐欺の犯行に及んでいるのみならず、その後も真面目に仕事をせず、パチンコ遊びに熱中し、堕落した生活を続けていたのであって、被告人〓山の反社会性、犯罪性は顕著であると認められる。以上の諸点に徴すると、その犯情はこの上なく悪質であるというほかなく、被告人〓山の刑事責任は誠に重大であり、被告人〓山に対しては極刑をもって臨むべきであるという検察官の所論はそれ相応の理由があるといえなくはない。

そこで、さらに、原判決がその理由中の「量刑理由」の項の二において、被告人〓山に対し死刑を選択しなかった理由として説示している酌量すべき事由につき、これを論難する検察官の主要な主張について検討する。

(一)  所論は、原判決が「本件強盗殺人は計画的というべきではあるが、被害者の状況を窺いつつ逐次犯行を決断し、犯行場所も場当たり的に探すなど、その計画性は低い。」旨認定、判断しているのは、極めて一面的なものの見方である旨主張する。

しかしながら、被告人両名が事前に犯行の手段、方法について打ち合せたのは、被害者をビニール紐で絞殺して死体を隠し、金品を奪うこと、カップラーメンを食べさせてくれという口実で被害者方を訪問すること程度であり、事細かに犯行の手順を打ち合せたとは認められず、また、被害者方を訪れた後も直ちに殺害の実行に及んでいる訳でもなく、被害者から奪うべき金品があるかどうか確認した後に殺害実行の決意を固めており、殺害場所を外部にすることとして被害者を連れ出した後も犯行実行場所を探し回っていることが認められ、これらによれば、その計画性は周到なものであったとまでは認められないのであって、原判決が極めて一面的なものの見方であるという所論は直ちには首肯し難い。

(二)  所論は、原判決が「被告人〓山は、預貯金引き下ろしを端緒として私文書偽造等の容疑で逮捕されるや、速やかに本件強盗殺人についても罪責を認めて犯行を自供し、自ら犯行現場に捜査官を案内し、これによって被害者の遺体が発見されており、被害者の遺体が発見された際には、悔悟して涙を流し、その後は一貫して自己の罪責の重大さを真剣に自覚し、極刑に処せられることを覚悟し、本件弁論終結時にも、死をもって罪をあがなうとの態度を示しているところである。また、同被告人の前刑の服役態度は極めてまじめであり、これがために、比較的早期の仮出獄が許されたのであり、仮出獄後も、当初は、健全な社会生活を営もうと努力したものといえ、さらに、当裁判所が期日外に実施した同被告人の実母の証人尋問調書を読み聞かせた際には、涙して実母の証言内容に聞き入るなどの点からすると、同被告人に改善更生の余地がないとまではいい切れず、かつ、同被告人にはなお一片の人間性が残っていることを看取できる。」旨認定、判断しているが、原判決が挙げる事情は被告人に改善更生の可能性及び人間性の片鱗を認める理由とはなり得ない旨主張する。

「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面(原審検二三五号)、捜査報告書(当審検五三号)など関係証拠によれば、被告人〓山は、昭和四九年一〇月一二日前刑の執行を受けて以降一四年余の期間服役し平成元年七月二〇日仮出獄しているのであって、その服役態度は真面目であったと窺われ、無期懲役刑の受刑者にしては比較的早期の仮出獄が許されたものと認められるところ、同被告人の仮出獄後の生活態度が仮出獄の恩典や被告人〓山を支える母親らの期待と努力をも踏みにじるものであることは検察官が指摘するとおりであり、また、被告人〓山の検察官調書(原審検二六四号)など関係証拠によれば、被告人〓山は、広島県三原警察署に出頭した当初は通帳や印鑑は被害者から貰った物だと嘘の弁解をし、取調警察官から追及されても通帳と印鑑は被害者の家から盗んだと弁解し、平成五年四月二七日有印私文書偽造、同行使、詐欺の被疑事実により通常逮捕されても本件強盗殺人につき自供しなかったけれども、二、三日にわたって取調警察官に説得され、自分の気持ちを整理した後、同年五月一日本件強盗殺人を自供し始め、同月三日被告人〓山の指示説明によって被害者の遺体が発見され、その現場で被害者の遺骨に手を合わせてお祈りし涙を出し、強盗殺人事件を二回も繰り返したので、極刑になることを覚悟した上で人間としての償いを果たしたいと一貫して共犯者のことも含めて自供しており、その後、原審公判段階において、被告人〓山への思いを語った同被告人の母親や姉の証人尋問調書を聞いた後の原審第六回公判期日において、被告人〓山は、義兄に対する恨みを述べ、責任を転嫁するかの供述態度を示したり、生きていてやりたいとの気持ちを述べたりしていることが認められるが、一方で、刑務所のつらさは体のしんまで染み込んで分かっているのに、同じことをした自分の愚かさが情けない、被害者に申し訳ない気持ちで一杯であり、被害者の冥福を朝晩手を合わせて拝んでいる旨述べ、原審第九回公判期日における最終陳述では「私は前回も長い懲役刑を務めたのに、またこういう事件を犯してしまい、……やはり罪の償いは死をもって清算しようと思います。どうも済みませんでした。」と極刑を覚悟し反省の情を表す供述態度を示していることが認められる。右事情をもって、検察官が指摘するように、本件犯行前の被告人〓山の行動等をも併せて、被告人〓山が死刑を覚悟しているのは同被告人が他人の命を軽視すると同様に自己の命をも軽視しているに過ぎないものであって重大な犯罪を犯したことに対する反省悔悟の情が全く認められないと評価するのは相当ではなく、やはり本件後の被告人の反省の情の表れの一事情とみるべきである。したがって、これに反する検察官の所論は採るを得ない。

(三)  所論は、原判決が「被告人〓山の量刑を考える上で、大きな意味を持つのは、同被告人が前刑無期懲役の仮出獄中に再度本件を敢行したことにあることはいうまでもなく、当裁判所も無期懲役に処せられた者でその仮出獄期間中に強盗殺人を犯した事例を検討したところ、過去一〇年内に確定した事例で、被告人〓山同様無期懲役刑の仮出獄期間中に強盗殺人を犯した者はすべて死刑に処せられているけれども、それらの事例を検討してみると、いずれも犯情において極めて悪質であり、まことに天人ともに許さざるものと認めるしかないものであり、それらの事例に比べれば、被告人〓山の情状は、殺害の手段方法の執拗性、残虐性、あるいは前歴等の点において、悪質さが低いといえる。」旨認定、判断していることについて、原判決言渡し日から遡って一〇年以内に無期懲役刑の仮出獄中に強盗殺人を犯して死刑に処せられ確定した事例が五件あるとして、その五件のうち本件と類似の二件と対比しても、被告人〓山の情状は、悪質でないといえず、また、無期懲役刑の仮出獄中に強盗殺人を犯し再度無期懲役刑に処せられた昭和五八年三月ないし六月に確定した二つの事例と対比しても、本件が被害者を殺害することを周到に準備・計画した上犯行に及んでいる点において、犯情を根本的に異にして悪質であり、無期懲役刑を選択できる案件でなく、死刑に処することが明らかである旨主張する。

前科調書(当審検二八号、三三号)、判決書謄本(当審検二九号ないし三二号、三四号ないし三六号)などを含む関係証拠によれば、検察官指摘の前者の事例の一つは、住居侵入、窃盗の罪を犯し服役し仮出獄した直後、窃盗の罪を犯して服役し仮出獄となった者が、その後、僅か二か月足らずで他の共犯者と共に老人と孫娘と二人暮らしの家に深夜侵入した上、老人をこもごも杉丸太で強打して殺害するとともに、熟睡中の孫娘もその頭部等を同被告人が杉丸太で殴打して重傷を負わせ、現金等を強取するという住居侵入、強盗殺人、強盗致傷の罪を犯して無期懲役に処せられ、前刑の執行終了後に無期懲役刑の執行を受けて約二五年間服役して昭和五〇年一〇月に仮出獄した後、パチンコ店に客として出入りするうち、同店の隣でパチンコ景品買いを営む老人と懇意となり、同人方で雑談したり茶菓子のもてなしを受けるようになり、昭和五七年ころから競馬、競輪などに狂い、その資金のため金融業者から借金を重ね、その借金返済に苦慮し思い悩むうち、右老人が夜間は一人住まいで多額の景品買い入れ資金を手元に保管していることに目を付け、同人に借金を申し込み、断られた場合にはその場で同人を殺害して金員を奪い取るしかないと考え、昭和五八年一月一六日夜、同人方を訪れて借金の話を切り出したが、すげなく断られた上、帰れと言われたことから、同人を殺害して金員を強取することを決意し、持参した石塊で同人の頭頂部を二、三回強打し、転倒して助けを求める同人の腹部を蹴り上げ、止めのため仰向けに倒れて呻き声を上げている同人の右耳付近を石塊の角で強打するなどし、同人を脳障害により死亡させて殺害し、現金一二八万円を強取したという事例であり、もう一つは、強盗、業務上横領、窃盗の罪を犯して服役したのち、窃盗、詐欺、業務上横領の罪を犯して服役した者が、横領、詐欺、窃盗を犯したほか、元同僚女性をその帰宅途中で待ち受け、金銭の借用申込みを断られて憤激し、その首を絞めて殺害し、現金を強取するという強盗殺人の罪をも犯して無期懲役に処せられて二二年余り服役し仮出獄を許されて平成二年二月に出所し、工員として働いていたが、スナックで飲酒するなどしたため、仮出獄時の所持金を殆ど費消してしまい、行き付けのスナックのホステスと東京に一泊旅行をする約束をし、急遽その費用を調達しなければならないとの思いにかられ、数回足を運んだことのある飲み屋の女性経営者を殺害して金員を奪い取ろうと企て、同年五月一日、同女に翌日会社の人間を数名連れて行くから夕方早く開店して欲しい旨の嘘を言って手はずを整え、翌二日午後五時二五分ころ同店舗に行き、所携のハンマーで同女の背後からその後頭部を手加減することなく二回殴打して同女を転倒させ、息を吹き返して声を上げた同女の前額部等をハンマーで数回強打して昏倒させ、現金約二万五、〇〇〇円在中の財布の入ったセカンドバッグ一個を強取し、死んだと思っていた同女の口からブツブツという声が聞こえたため、我を忘れて多数の細骨片が飛び散るほどまでにハンマーで同女の頭部を滅多打ちにし、同女を外傷性脳障害により死亡させて殺害したという事例であり、これらの事例と本件とを対比すると、なるほど、遊興費欲しさの犯行であること、被害者が老人あるいは女性という弱者であること、予め被害者殺害を計画していること、被害者が一名であり、何ら落ち度がないこと、被害者の遺族が極刑を望んでいることなど共通性が認められるけれども、原判決が認定するように、殺害の手段方法の執拗性、残虐性、あるいは前科等の点において、悪質さが異なるのであり、これらの点を原判決が量刑の要素として考えていることをもって不当であるとはいえない。また、死刑は究極の峻厳な刑であり、「死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される」旨の最高裁判例(最高裁昭和五八年七月八日第二小法廷判決・刑集三七巻六号六〇九頁等)に照らすと、検察官指摘の再度無期懲役に処した事例を引き合いに出した上、被害者の殺害を計画・実行した本件は犯行現場の混乱の中で咄嗟に被害者の殺害を決意し実行した右事例と計画性の有無という点で犯情が決定的に違うから、この点を死刑、無期懲役刑の選択の重要な基準とするのが合理的であるという検察官の主張も含め、所論は採るを得ない。

(四)  所論は、原判決が、被告人〓山に対し本件で再度無期懲役刑を科した場合どの程度現実に服役しなければならないかの検討において「本件犯行によって仮出獄が取り消され、昨年(平成五年)六月以来、前刑たる無期懲役刑が再び執行されている状態にある。その仮出獄ももちろん可能であり、この場合には法律上最低限度の服役期間というものはないけれども、仮出獄の他の要件を備えるに至ったとしても、仮出獄が取り消されるに至った経緯、社会感情等を考えると、その再度の服役期間は最低一〇年以上を要するものというべきである。」、「本件無期懲役刑についても仮出獄の要件を充たすためには、更に法律上一〇年が必要であるが、本件犯情等を考慮に入れると、仮出獄に必要な他の要件を備えるに至ったとしても、最低二〇年程度の服役を要するものというべきである。そうすると、再度無期懲役刑を科した場合最低でも三〇年程度服役することが必定である。」、「最低限でもそれだけの長期間の服役を余儀なくさせることが可能であれば、これは刑責を明らかにし十分な贖罪をさせるという刑政の本旨にかんがみても過不足ないと思料するに至った。」、「なお、以上のような量刑は、本件犯罪に対する量刑要素として前刑の執行状況を考慮することになるが、前刑仮出獄の取消しも本件犯行の一結果ということができるから、これを本件量刑の一要素として考慮することに問題はない。」、「以上述べた服役期間は、この判決の効果として直ちに定まるものではなく、仮出獄をいつ許すかの判断は、更生保護委員会の権限に属する事項ではあるけれども、現実の無期懲役刑の執行状況からみて前述のようにいえるとともに、この判決で示した考え方は、無期懲役刑を言い渡した裁判所の見解として、十分尊重されると考えられる。」旨認定、判断している点について、(1)原判決の右考え方は、いたずらに長期間被告人〓山を服役させることができればそれでよしとするものであって、これは、長期間の拘禁刑のもたらす弊害や非人道性からみて刑罰としての拘禁刑には自ずから限界があって、有期拘禁刑の上限を懲役二〇年と定めてそれ以上の有期拘禁刑を認めず、それより重い刑罰は死刑として仮出獄を許さない終身刑を定めなかった現行刑法の趣旨に反するものであり、原判決が判示する前記程度の量刑でなければ償うことができないとするならば死刑を言い渡すべきであり、(2)また、無期懲役刑の仮出獄中に再び無期懲役刑に処せられて再度仮出獄した二つの事例を引き合いに出して「最低でも三〇年程度服役することが必定である。」との原判決の認定、判断は、実務上の根拠が全くないものであり、また、原判決が地方更生保護委員会に原判決の判断に沿う仮出獄制度の運用を求めるというのは裁判所の権限を逸脱したものであって不当であり、(3)なお、原判決が被告人〓山の仮出獄の取消しを有利な事情として過大に斟酌するのは、そもそも仮出獄は施設内処遇から社会内処遇への刑の執行形態を変更するものに過ぎず、仮出獄の取消しも社会内処遇が不可能となり又は相当でないことから施設内へ刑の執行形態を変更するだけのものであるという制度趣旨の理解を誤ったものであって不当であり、また、実際に被告人〓山は仮出獄後、パチンコに熱中し、借金を重ね、母親らからも金を無心してパチンコを続けていただけでなく、本件犯行当時以降正当な理由がないのに真面目に仕事をせず、前件の被害者遺族への慰謝の措置を講じていないのであって、これは一般遵守事項に違反するほか、被害者の冥福を祈り、慰謝に誠意を尽くし、賭事に手を出さず、辛抱強く真面目に働き、決して徒遊しない旨の仮出獄中の特別遵守事項にも違反するのであって、本件犯行に及ばなかったとしてもその仮出獄取消しに十分な理由があるから、原判決が判示するように、前刑仮出獄の取消しも本件犯行の一結果であるとはいえない旨主張する。

しかし、まず、所論(1)についてみるに、原判決は、被告人〓山に対する量刑としては死刑と無期懲役刑のいずれかしかなく、死刑と無期懲役刑の間には無限の隔たりがあるところ、「ことに被告人〓山になお人間性の片鱗を窺うことができるという点において、同被告人に対し、極刑をもって臨むことに一抹の躊躇を覚える。」旨、つまり、死刑を選択し難い旨判断した上、死刑と仮出獄を許す無期懲役刑との中間的な科刑として「仮出獄を許さない無期懲役刑という制度が考えられないではない。」と言及しながらも、「わが国にはそのような制度がない。」旨判示し、仮出獄を許さない終身刑を定めなかった現行刑法の枠組み、その趣旨も踏まえた上で、それに続けて、再度無期懲役刑を選択した場合の服役期間についての検討に入っているのであって、所論指摘のように現行刑法の趣旨に反するとはいえず、原判決が判示する程度の服役期間でなければ償うことができないとするならばむしろ死刑を言い渡すべきであるという検察官の主張も含め所論は採るを得ない。

次に、所論(2)についてみるに、無期懲役刑に処せられた者には、刑法二八条によって、「改悛の状」があるときは、一〇年を経過した後、行政官庁(地方更生保護委員会)の処分によって仮出獄を許すことができ、犯罪者予防更生法三〇条によれば、地方更生保護委員会が仮出獄につき許否の決定をするため、指名した委員自らが本人に面接し、本人の収容されている監獄の長の意見を聞き、本人の人格、在監中の行状、入監前の生活方法、家族関係その他関係事項を入念に調査することになっており、改悛の状あるときの実質的条件を具体化した基準といえる仮釈放及び保護観察等に関する規則(昭和四九年法務省令二四号)三二条によれば、悔悟の情、更生の意欲、再犯のおそれがないこと、社会の感情が仮出獄を是認することの事由を総合的に判断して相当であると認めるときにはじめて仮出獄を許すことになっているところ、捜査報告書(当審検五三号)、前科調書(当審検五五号)及び判決書謄本六通(当審検五六号ないし六一号)など関係証拠によれば、仮出獄が現にかなり運用されている中で、所論指摘の事例のうちの一つは、強盗殺人の罪により無期懲役に処せられての仮出獄中に殺人未遂、強姦致死の罪により再度無期懲役に処せられた(なお、第一刑は昭和五七年七月三〇日刑の執行免除となり、昭和二一年一一月六日確定した第二刑は昭和五七年八月一一日恩赦により刑の執行が免除となっている。)事例であって、また、他の一つは強盗殺人、窃盗の罪により無期懲役に処せられて仮出獄中に強盗殺人未遂の罪により再度無期懲役に処せられ、第二刑確定後二六年余り服役して再度仮出獄が許された事例であることが認められ、これらの事例と強盗殺人罪により無期懲役に処せられての仮出獄中に本件のような内容の強盗殺人の罪を犯したという場合とを、前述の仮出獄の判断基準などに照らしてみても、後者の方が仮出獄の恩典に与えるのにはより多くの服役を余儀なくされるであろうと窺われ、また、原判決も前述のとおり、仮出獄の判断は更生保護委員会の権限に属する事項であることを弁えた上、同委員会の判断資料に供しようと「この判決(原判決)で示した考え方は無期懲役刑を言い渡した裁判所の見解として十分尊重されると考えられる。」旨述べているに過ぎないのであるから、これをもって裁判所の権限を逸脱したものであって不当であるという主張も含め所論は採るを得ない。

また、所論(3)についてみるに、「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面二通(当審検六四号、六六号)によれば、中国地方更生保護委員会が平成五年六月一一日被告人〓山に対する仮出獄を取り消したのは、本件犯行を犯したことが善行を保持する旨の一般遵守事項及び人命の尊さを自覚し他人に粗暴なことはしない旨の特別遵守事項に違反することを理由としており、他の所論指摘の被告人〓山の仮出獄後の事情が他の遵守事項違反となり得るとしても、これをも理由として挙げてはいないことが認められ、結果的に「前刑仮出獄の取消しも本件犯行の一結果である」といえない訳でないのであって、原判決が被告人〓山の仮出獄の取消しを有利な事情として過大に斟酌しているともいえず、所論には俄に左袒することができない。

(五)  被告人黒山の量刑との均衡を失するという所論も、被告人両名の本件における犯情が異なることを踏まえ、かつ、後述のとおり、被告人黒山が無期懲役刑が相当であるからといって、それ故に被告人両名には犯情に差があるから量刑にも差を付けるべきであるとして、個人の存在自体を否定する究極の最も厳しい科刑である死刑を被告人〓山には選択するほかないというのは妥当でなく失当である。なお、前述のとおり、被告人両名に対し本件科刑として同じ無期懲役刑を言い渡した場合に要する実際の服役期間に相当の差が出るであろうと窺われ、被告人両名の量刑の間に不均衡があるとまではいえないから、所論も採るを得ない。

ところで、死刑は究極の峻厳な刑であり、諸般の情状を考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合に死刑の選択が許されるとの観点から、以上の諸事情を総合勘案してみると、被告人〓山の罪責は極めて重大であり、かつ、被告人黒山よりその犯情が重きことは明らかであるけれども、原判決が被告人〓山に対して死刑を選択しなかった事由として説示するところは決して理由がないものではないから、これら諸事情を判示した上で、被告人〓山に「なお一片の人間性が残っていることを看取できる。」として同被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が、これを破棄した上で改めて極刑に処さなければならないほど著しく軽きに失して不当であるとは認められない。結局、検察官の論旨は理由がない。

二  次に、被告人黒山に対する原判決の量刑についてみる。

本件強盗殺人は、その罪質、態様とも悪質であり、その動機に酌むべき点がなく、結果も極めて重大であり、その社会的影響も大きいことは前述のとおりであるほか、改めて、被告人黒山の本件犯行の関与度についてみるに、被告人黒山は、平成四年三月中旬ころから被告人〓山と共に茶の訪問販売を始めるも、思うように売れず、同月二八日昼過ぎころ「盗っ人でもするか。」などと自ら言い出し、被告人〓山から「半端なことせんと、大きいことやらにゃあ意味がない。同じことやるなら、でかいこと一発やろうや。」、「サラ金強盗でもするか。」などと言われた際に、「一人で住んでいる年寄りとか、汚い家に住んでいる方が案外貯金せずに現金を持っとるんじゃないか。」などと言って被告人〓山に働きかけており、被告人〓山から「ひょっとしたら、内藤の婆さんなんか、銭を貯めて持っとるかもしらんのう。」、「殺して死体をどこかに隠せば、身寄りもないし、分からんのじゃないか。やるか。」などと被害者を対象とする強盗殺人を言われるに及んで、「殺さなくてもいいじゃないの。」などと被告人〓山の企てには左袒し難い態度を示したものの、被告人〓山から「顔を知っているから、やるしかない。」などと強く言われて、自分は降りるとか、勝手にやればいいという返事はせず、「分かった。」と答えて被告人〓山の右企てに賛成する意思を表明しており、殺害方法も相談して紐で首を絞めることに決めた後も、コンビニエンスストアでビニール紐、軍手を買い求め、ビニール紐を八重に束ね、結び目を作って長さ一メートル余りのものを作って殺害の準備を自らしており、同日午後七時ころ被害者方に行った際には、家の中で殺すことに乗り気がしなくなったり、あるいは奪い取る金がないと判断して被害者を殺害しても仕方がないと思ったりもしたものの、被告人〓山ともども被害者に借金を申し込んで本当に金がないか確かめ、被害者から一三万円を貸してもらうことができて改めて被害者を殺害して金品を奪おうと決意し、被害者を連れ出すため被害者に対し「温泉へ今頃行くと丁度いい。」、「自分の知っているところがあるから行かねえか。」などと言って誘い、この話を信用した被害者を連れ出しており、その後も殺害場所について被告人〓山と相談して探し回っており、その途中で高松港の方面に行った際に被告人〓山に対し「わしが婆さんを連れてホテルに泊まるからその間に面やんが婆さんの家に戻って金を盗って来ればええんじゃないか。」などと言って被害者殺害を躊躇したものの、被告人〓山から「もう連れ出している、泥棒に入っても分かるから、もうやるしかない。」などと返事されて、被害者を殺害して金を取るしかないと再度考え直し、本件犯行現場に着いた際には、被告人〓山と共に車から降りて、被告人〓山から「黒ちゃんが婆さんと話をしている間にわしが石でやるから。」と言われて「山だから、植木をこいで行くという話をしてるわ。」などと答えた上、自動車内の被害者に対し「お婆さん、植木のいいのがあるから、採りに行こう。」などと声を掛け、これを信用した被害者を被告人〓山と共に車から降ろしているのであって、被告人黒山は、被告人〓山との共謀関係、犯行に至る経緯において重要な役割を担っていることは明らかであり、しかも、被害者殺害においては、被害者の首に回したビニール紐を被告人〓山ともども協力して引っ張って絞めているのであって、積極的に実行していることも明らかである。右のとおり、被告人黒山は、被告人〓山に言われて応じた点はあるにしても、自らの意思で本件犯行を被告人〓山ともども実行しているのであってその果たした役割は重大であり、所論がいうように、被告人黒山が被告人〓山から犯行に引きずり込まれたに過ぎないとはいえない。加えて、被告人黒山は、昭和五三年一〇月から昭和六三年六月にかけて、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺未遂、詐欺、窃盗未遂、常習累犯窃盗等の罪により六回懲役に処せられて服役し、平成三年七月最終の刑の執行を受け終わったのに、本件強盗殺人を敢行し、その後も被告人〓山と行動を共にして被害者の前記通帳や印鑑を使って預金を引き出そうとしたり、以前被告人黒山が盗みに入ったことのある家に盗みに入ったりしていることなどに照らすと、盗みの常習性はもちろん、犯罪性向が顕著に認められることに徴すると、被告人黒山の本件刑事責任も誠に重大であるといわざるを得ない。

そうすると、被告人黒山が被告人〓山と行動を共にしていなければ本件強盗殺人までには及ばなかった可能性がないではないこと、前述のとおり犯行途中で被害者方での殺害を躊躇したり本件殺害現場に至るまでの間にも被告人〓山に対し殺害を思い留まるよう話したりしていること、本件により経済的利益を殆ど得ていないこと、本件犯行後、罪の意識に苛まれ悪夢に悩まされて自首しようとしたこともあること、逮捕後は素直に罪を認めて反省悔悟して毎日被害者の冥福を祈り続けていることなど弁護人の所論が指摘し、記録上認められる被告人黒山のために酌むべき情状を十二分に考慮してみても、本件事案の罪質、態様、結果が誠に重大であって、被告人黒山に対し酌量減軽すべき情状があるとは到底認められず、前述の犯罪の犯情に照らして罪刑の均衡の点からみても不均衡であるとはいえない。なお、被告人黒山の弁護人は、被告人黒山を検察官から死刑を求刑された被告人〓山と同じ無期懲役に処するのは余りにも刑の均衡を害すると主張するけれども、前記の犯情、仮出獄、その取消しの点などを総合勘案すると、所論の不均衡の感をもって、被告人黒山に対し強盗殺人罪の法定刑である死刑又は無期懲役刑のうち軽い無期懲役刑を選択した上さらに酌量減軽をして有期懲役刑にすべき犯罪の情状があるとまでは到底認められないから、採るを得ない。これらの諸情状を勘案すると、被告人黒山を無期懲役に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であるということはできない。弁護人の論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により、被告人黒山及び検察官からの本件各控訴を棄却することとし、被告人黒山に関する当審における未決勾留日数の算入について平成七年法律第九一号による改正前の刑法二一条を、被告人両名の当審における各訴訟費用を被告人両名にいずれも負担させないことについて刑訴法一八一条一項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

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